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概要

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大正三年八月の大水害ω《大正3年8月羽田》秋山十五ケ部落全滅惨憎たる未曾有の大山海鴫(つなみ)今回の水害は何れも悲惨の極みならざるは非ざるも中にも秋山地方の大被害は実に人生酸鼻の極にして悲惨の状到底筆紙に尽し難きも、今左に其の概祝を記さん。去る十三日午後、苗場山を中心として集まれる黒雲は、いやが上に重りて未だ日没せざるに天既に暗黒となり、午後より降り出せし雨は夜に入りて益々激しさを増し、さながら大渥布(ばくふ)の降下するが如く、雷なり暴風吹き荒(すさ)み、物凄さ云はん方なく、秋山住民は伺れも不寝にて神悌に燈明学捧げ、ひたすら無事を祈願するのみなりき。折Lも只さい暗き丑満れも土砂に埋没し去り、じ、麗(うるわし)かり大惨劇を演出せり。し回は砂の河原と化し、昨日まで、うっそうた人家の里は何れも覆(らりし峯の大森林は崩れ流い)々たる大石河原となさ抗て影を止めず、青草りぬ。(中陪)茂れる小沢々々は何れも小崩壊は未だ全く止む土砂を瀬流にさらわれてるに至らずして行人の危数尋の谷と化し、僅かに険鯵(おびただ)し。人跨(また)ぐに足りし漢道、水路悉く崩壊せられ(うしみつ)(午前二時か二時半)頃、恢(あやし)き暴風さっと吹き来りて燈明滅したるよと思ふ間もなく天砕(/\だ)け、地軸裂くるの大音響爆然として起り、秋山の全山を悉(こととと)く崩壊し、家を圧倒し、人畜を艶(たお)し、耕地は何流は荒れて数十間の大石川原と変じ、耕地は全然埋没せられて粟稗(あわひえ)は云ふ迄もなく、明日よりは之によりて命を繋(つな)がんと頼みし茄子、南瓜より馬鈴薯、大根に至るまで農作物も殆んど其影が止めず、青かりし畑も赤地の原と変10たるを以て今や秋山住民は飲むに水なく、行くに道なく、喰ふに食なくゴ着るに衣なく、真に悲惨の極みなり。耕地の全部を崩壊せられたる秋山住民は全く将来生活の基礎が根底より破壊せられたり。左に其の概況を示さん。部落名、耕地欠壊(全耕地)、住家倒壊・破損、死マ者前子六割マ出浦四割、一戸、)人マ烏帽子九割、七戸、一人マ屈岨三割マ下回出山九割、四戸マ上日出山七・五割、コ一戸、七人マ前倉四割、一人マ結東三割、二戸マ逆巻三割マ穴藤四割マ清水河原五割、二戸マ見倉七割、五戸マ中の平七割、二戸、一人マ松沢八割、二戸マ大赤沢八割、二十四戸、一人。惨状右の如くにして秋山は既に全滅し、住民は前途に迷ひっ、あり。(笠間俊)109